サカモト石油の更新担当の中西です。
1|高度経済成長期〜オイルショック:フルサービス全盛の時代(〜1980年代)
モータリゼーションの拡大とともに、SSは「燃料を入れる場所」以上の存在でした。ガラス拭き・灰皿清掃・オイル点検などの“おもてなし”が差別化の柱。看板(ブランド)と立地が価格よりも強い時代で、地域の交通インフラとしての役割が大きかったのが特徴です。
2|バブル崩壊〜規制緩和:価格競争の始まりとセルフ解禁(1990年代)
1990年代に入り需要の伸びが鈍化。並行して規制緩和が進み、1998年の消防法改正を機にセルフ式SSが可能に。安全設備や運用要件を満たすことを前提に、従来のフルサービス中心から運営形態の多様化が始まります。ウィキペディア+1
3|2000年代:セルフ化と“周辺サービス”の収益化
セルフ普及と価格自由化の浸透で粗利は圧迫。多くのSSが以下のような収益源を積み上げていきます。
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洗車(機械・手洗い・コーティング)
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車検・整備・タイヤ・オイル・バッテリ販売
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ポイント/アプリ連動の会員化、プリペイド・キャッシュレス
この頃からコンビニ併設型の開発も本格化。ENEOS×セブン-イレブンなど、給油と購買の同時処理で「来店目的の複合化→客単価の底上げ」を狙うモデルが広がります。ENEOS
4|2010年代:統合再編と“チェーン運営”の進行
需要頭打ちと設備投資負担のなかで、ブランド統合・再編が加速。JX・東燃ゼネラルの統合(JXTG)を経て、2020年にENEOSへ商号変更。バックエンドの効率化やカード・アプリの共通化、広告投資の集約など“チェーンの論理”が業界に一段と浸透しました。ENEOS+1
5|2020年代:脱炭素・電動化・災害レジリエンスの三重課題⚡
5-1. 需要構造の変化とSS数の減少
燃費改善・人口減少・EV/ハイブリッド普及の影響で、SS数は1994年度末の6万0,421カ所をピークに半減以下。2024年度末時点で2万7,009カ所という推計も公表されています(30年連続減)。小規模事業者の退出・統合も進行。The Japan Times
5-2. EV・水素など“マルチエネルギー化”
経産省はEV充電インフラの中長期整備指針を示し、利便性・持続性を確保する設置の考え方を整理。SSの敷地・動線・決済・会員基盤は充電の受け皿として相性が良く、実証・導入が加速しています。水素についてもステーション整備が政策的に推進され、段階的増設の目標が示されています。経済産業省+1
5-3. 災害時の“住民拠点SS”とBCP
地震・台風など非常時には、**自家発電と燃料在庫を備えた「住民拠点SS」**が地域の命綱に。営業状況の地図公開や優先給油の運用手順が整備され、自治体計画と連動してレジリエンス強化が進みます。エネ庁+2茨城県公式サイト+2
6|現在地:SSは「モビリティ×小売×エネルギー」の交差点へ
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小売機能の強化:コンビニ・カフェ併設、無人コンビニやATM設置で“ついで買い”を最大化。宇佐美鉱油
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サブスク化:洗車の定額サービスが普及し、アプリ連動でLTVを底上げ(例:Wash Pass 等)。Wash Pass+1
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データ起点のCRM:アプリ・決済データを起点に、給油・洗車・物販を横断する“束ね売り”が可能に。
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業態複合:カーシェア、レンタカー、タイヤ保管、簡易PUDO、軽整備など“移動を支える総合拠点”化。
7|地域別に見る“課題とチャンス”
都市部
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渋滞・駐車スペース制約 → 回転率重視の導線設計
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差別化は時短(セルフ×非接触)と物販(コンビニ・カフェ)、アプリ会員化で
地方・郊外
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需要密度の低下 → 複合収益(洗車サブスク/車検/灯油宅配/農機燃料)で底上げ
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災害時の拠点化(住民拠点SS)で自治体連携・補助採択の可能性拡大 一般社団法人全国石油協会
8|年表でつかむ:主要トピック
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〜1990年代前半:フルサービス中心、立地×看板が競争軸
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1998年:消防法改正、セルフ式解禁(安全要件の整備)ウィキペディア
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2000年代:セルフ普及・価格競争・周辺サービス収益化
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2010年代:統合再編(JX×東燃ゼネラル→2017年JXTG、2020年にENEOSへ)ENEOS
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2020年代:SS数の減少続く/EV充電・水素への対応、住民拠点SSの制度運用 The Japan Times+2経済産業省+2
9|これからの勝ち筋:現場で実装しやすい6つの戦略
① EV・充電×会員モデルの“抱き合わせ”設計 ⚡
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充電待ち時間に物販・カフェ・作業受け付けを提案
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給油・充電・洗車・カフェの横断ポイントで定着化(アプリで一元化)
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充電器は運用モデル(利用率・ピークカット・価格設計)まで含めて設置を検討。経済産業省
② 洗車・コーティングのサブスク化で“雨でも嬉しい”収益へ
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月額制で来店頻度の平準化、LTVを安定化
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価格は“軽いプラン+上位コース”のツーステップでCVR最適化(例:Wash Pass等のモデル) Wash Pass
③ コンビニ/無人小売の併設で“ついで買い”最大化
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朝夕ピークの動線最適化、決済レーンの混雑緩和
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キャンペーンは「給油×コーヒー」「洗車×弁当」など同時購買に寄せる。ENEOS+1
④ BCPと「住民拠点SS」で地域の信頼資本を積み上げる
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自家発電・在庫・運用手順を点検し、自治体の優先給油スキームと接続
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平時から訓練・広報で“非常時の拠点”を認知形成。エネ庁+1
⑤ データ×動線の“現場最適化”
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給油レーン、洗車待機、物販導線を**数値化(台数×滞在時間)**して改善
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会員属性・時間帯別の**仕掛け(値引き/クーポン)**でアイドル時間を埋める
⑥ 人材の再定義:販売員→“モビリティ・コンシェルジュ”へ
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点検・提案・会員化・予約獲得までを担う提案型スキルを育成
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KPIは売上より顧客生涯価値(LTV)/継続率へ
10|KPI設計のたたき台(週次モニタリング)
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① トラフィック:来店台数(給油/非給油)・新規会員数
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② 収益ミックス:燃料粗利比率/非燃料粗利比率(物販・整備・洗車・サブスク)
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③ 回転率:レーン稼働率・平均滞在時間・ピーク混雑指数
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④ LTV:会員ARPU・サブスク継続率・クロスセル率(給油→洗車→物販)
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⑤ BCP:非常用発電稼働テスト回数・自治体訓練参加状況・在庫日数
11|SSは“減る”のではなく“形を変える”
日本のSSは、フルサービスの象徴から、セルフ普及と価格競争を経て、今はマルチエネルギー×小売×地域防災を束ねる“エネルギーハブ”へと進化中。設備更新・人材育成・データ活用・自治体連携を一体で設計できた拠点ほど、次の10年も強く、長く選ばれていきます。